スーツのコラム
ドブクロスLoom(英国製の低速織機) (2002.3.22)



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19世紀後半〜1960年代後半まで作られた『Dobcross Loom』という織機をご存知ですか?

低速で、手間と時間をかけて生地を織る英国古来の織機で、
英国北部にあるドブクロス村で作られた事に由来して、『ドブクロスルーム』と名付けられています。
このLoom(織機)で織られた生地を『Dobcross(ドブクロス)』と呼びますが、
この名前を使えるのは、『Holland&Sherry(ホーランド&シェリー)』社だけです。
そう、『Dobcross(ドブクロス)』という生地は、ホーランド&シェリー社の登録商標なのです。

そして、このドブクロス織機で織られる生地は、
ウール本来の柔らかな風合いと弾力性に富んだものに仕上がります。

横糸を、木製のShuttle(シャトル)で1分間に100ピックの速さで丹念に打ち込んでいきます。
この速さでは、1日にたったの0.8反しか織れません。(1反は約50メーター)

織機本体もさることながら、動いてるサマ≠ヘ圧倒的な存在感を醸し出しています。
音の存在感も凄いですよ、、だってその部屋への入場は耳栓着用が義務付けられてる位ですから。

現在は技術も進み、この低速のドブクロス織機から段々と高速化され、
『レピア織機』や『ズルツァー織機』、さらには、
ジェットエアーによって超高速で糸を送る『エアージェット織機』へと時代は移り変わっています。

これらの織機は、1分間で400ピックの速さで緯(横)糸を打ち込みますから、
ドブクロスルームの4倍の早さです。
ですから、1日に3反弱を織れる事になりますね。

エアージェット織機になると、1分間に600ピックですから、
ドブクロスの、実に6倍というスピードになります。
そうなると、何と1日に5反も織れます。

ただ、エアージェット織機は、単純な組織構成の生地を織る事には適していますが、
複雑な組織の生地を織る場合は、今でも低速織機で織られています。

あと、ドイツで開発された『ショーンヘル』という織機をご存知の方もおられると思いますが、
これはドブクロス織機よりも若干新しい機械で、それでも1分間に120ピックです。

緯(横)糸の打ち込み速度が高速になればなるほど、糸1本1本にかかるテンションが強くなり、
ウール本来の弾力性や風合いを出し難くなってしまいます。
最近では織り上がった後のフィニッシング技術(仕上げ・整理)が進歩しているので
見た感じや触った感じは、パッと見は同じようですが、
表面的に加工したものと、本来持つ特性がそうであるものとでは、
着込んで行った時に差が出てくるでしょうね。

今回訪問したミル(機屋)は、元々はテイラーリトルウッドと云うミルで、
それを、ホーランド&シェリー社が買収したものです。
現在の正式名は、そのまんま『Dobcross Weaving Company』といいます。

そこにはドブクロスルームが14台(2002年春現在)と、見本反用ハーフ巾のルームが1台ありました。
そのほとんどが50〜60年前のルーム(織機)だそうです。
そして、織機の生産自体も30年程前に終了しているとの事でした。
工場を案内してくれた工場長のKen氏は、
廃業するミルから古いドブクロス織機を買い取って来ては、
徐々にその数を増やしているそうですが、そうなると、もうマニアですね。
工場の隅っこには部品取り車≠ウながら部品取り織機≠ェ置かれていましたからね。

皆さんは、最新の技術を使ったスーパ180'Sや150'S、120'Sといったハイテク≠ネ生地と、
こんなクラシカルな手法で織られた、手の温もりのあるローテク≠ネ生地、
どちらを選びますか?