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19世紀後半~1960年代まで作られた『Dobcross Loom』という織機をご存知ですか?
低速で、手間と時間をかけて生地を織る英国古来の織機(ルーム)で、
英国北部にあるドブクロス村で作られたことに由来して、
『ドブクロスルーム』と名付けられました。

このLoom(織機)で織られた生地を『Dobcross(ドブクロス)』と呼びますが、
これは『Holland&Sherry(ホーランド&シェリー)』の登録商標。
この織機で織られた生地は、ウール本来の柔らかな風合いと弾力性に富んでいます。

緯糸(ヨコ糸)を、木製のShuttle(シャトル)で、
1分間に100ピック(往復)の速さで丹念に打ち込んでいきます。
この速さでは、1日にたったの0.5反しか織れません。(1反は約50メーター)

織機本体もさることながら、動いてる〝サマ〟は圧倒的な存在感を醸し出しています。
音の存在感も凄くて、工場に入るには耳栓着用が義務付けられてる位です。

現在は技術も進み、この低速のドブクロス織機から段々と高速化され、
『レピア織機』や『ズルツァー織機』、さらには、
ジェットエアーによって超高速で糸を送る『ジェット織機』へと進化を続けています。

これらの織機は、1分間で400ピックの速さで緯糸(ヨコ糸)を打ち込みますから、
ドブクロスルームの4倍の早さで、1日に2反を織れる事になりますね。

エアージェット織機になると、1分間に600ピックですから、
ドブクロスの、実に6倍というスピードになります。
そうなると、何と1日に3反も織れます。

ただ、エアージェット織機は、
単純な組織構成の生地を織る事には適していますが、
複雑な組織の生地を織る場合は、今でも低速織機で織られています。
あと、ドイツで開発された『ショーンヘル』という織機ですと、
これはドブクロス織機よりも若干新しい機械で、
それでも1分間に120ピックです。

緯糸(ヨコ糸)の打ち込み速度が高速になればなるほど、
糸にかかるテンションが強くなり、ウール本来の弾力性や風合いは損なわれます。
最近では織り上がった後のフィニッシング(仕上げ・整理)が進んで、
見た感じや触った感じは、パッと見は同じようですが、
表面的に加工したものと、本来持つ特性がそうであるものとでは、
着込んで行った時に差が出てくるでしょうね。

今回訪問したミル(機屋)は、
元々はテイラーリトルウッドと云うミルで、
それを、ホーランド&シェリー社が買収したものです。
現在の正式名は、そのまんま『Dobcross Weaving Company』といいます。
そこにはドブクロスルームが14台(2002年春現在)と、
見本反用ハーフ巾のルームが1台あり、ほとんどが5~60年前の物だそうです。
そして、織機の生産自体も30年程前に終了しているとの事でした。
工場を案内してくれた工場長のKen氏は、
廃業するミルから、古いドブクロス織機を買い取ってきては、
徐々にその数を増やしているそうですから、そうなると、もうマニアですね!
工場の隅っこには〝部品取り車〟さながら〝部品取り織機〟が何台も置かれていましたからね。

皆さんは、最新の技術を使ったスーパ180’Sや150’Sといった〝ハイテク〟な生地と、
クラシカルな手法で織られた、手の温もりのある〝ローテク〟な生地、
どちらを選ばれますか?